「殺処分ゼロ」は動物愛護管理法の規制強化で実現できるのか?

[2018/06/01 6:00 am | 編集長 国久豊史]

5月21日(月)、衆議院第一議員会館・大会議室にて「8週齢規制、各種数値規制、繁殖業の免許制を求める緊急院内集会」が開催されました。この集会は、5年に1度となる動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)の改正を目前に、浅田美代子さんなどを中心とする芸能人、政治家、動物愛護団体関係者など300名あまりが参加して開催されました。

「8週齢規制、各種数値規制、繁殖業の免許制を求める緊急院内集会」

その内容は、動物愛護法における規制の強化により「殺処分ゼロ」を実現するというものでした。ポイントは下記の3点。

「8週齢規制」→生後56日以下の子犬・子猫の販売や展示を禁止
「各種数値規制」→繁殖回数や飼育施設の広さ、従業員数に関する数値規制
「繁殖業の免許制」→現行の登録制から、免許制への変更

これらの規制を盛り込んだ法整備をしないと、悪徳繁殖業者や不適正なペット流通がなくならず、不幸な犬や猫などのペットはゼロになることがないという認識のもと、登壇した人たちが必要性を語りました。中には「改正に反対する議員を明らかにするべきだ」と強く訴える場面もありました。

確かに規制は必要で、今回の規制強化には賛成です。しかし、ただ法律を改正すれば目標が実現できるかといえば、そう簡単ではないのも事実です。この集会は、業者をどう規制するのかに重点が置かれていましたが、私たち飼い主や消費者に対しての議論はなされていませんでした。そんな状況でありながらも唯一、鈴木貴子議員のスピーチが印象的でした。これらの規制は業者だけでなく、多頭飼育など飼い主個人にもあてはまること。そして、法律を立法化するだけでなく、しっかりとしたチェック体制で運用していかないと意味がないということでした。

「仏作って魂入れず」であっては、不幸なペットをなくすことはできません。鈴木貴子議員の指摘のとおり、生産・販売者と消費者双方がしっかり理解し、遵守し、行動させる(する)ことが重要なのだと思います。

たとえば「8週齢規制」。いくら規制を強化したとしても、誰がどのように8週を判断するのでしょうか。現状では、より小さいうちに販売しようとし出生日をごまかして流通させています。「小さく産まれていますが8週です」と言われてしまえば、それで終わりです。

「各種数値規制」も同様に、繁殖現場が自宅の場合に動物愛護センターの職員が抜き打ちで室内をチェックできるのか、もしくはそういった権利を持つのかという問題もあります。さらに、「繁殖業の免許制」では、資格の内容を誰がどう決めるのか、認可する省庁はどこか、などの議論もあります。

では、どのようにすれば不幸な犬・猫などのペットを少なくしていけるのか。それは、私たち飼い主である消費者が知り、そして行動することだと思います。今回の集会では、現状の認識において、ネガティブな面だけで、ポジティブな面=変化にはまったく触れられていませんでした。しかし、実際に取材していると、進みは遅いかもしれませんが、確実に変わり始めていることを感じます。

ペトハピでは、ネガティブな現状を悲観するのではなく、どうしたら幸せに出会い、共生ができるのかというポジティブな考え方を啓発してきました。とくに、共生のスタートにおいては、以下のようなことを実行することにより、「健全」な共生を始められると考えています。

・繁殖場所を見学し、その際に親犬・親猫を確認する
・飼育環境が清潔で整っているか確認する
・繁殖の頻度を確認する(健全な繁殖をしているか)
・犬種・猫種の血統を考えた繁殖をしているか確認する
・犬種・猫種のスタンダードを理解してるか確認する
・親犬・親猫の健康を確認する(予防接種、健康診断の受診歴など)
・親犬・親猫・兄弟姉妹から離す時期は法律を遵守しているか確認する
・犬種・猫種について歴史や特徴、疾患についての知識があるか確認する
・遺伝的疾患に対する予防や定期的な検査をしているか確認する
・譲渡時の契約書内容を確認する
・世界基準の血統書を発行できるか確認する
・譲渡後も相談やアドバイスなどコミュニケーションがとれているか確認
・万が一飼えなくなったときの対応を相談できるか

じつは、「健全」な繁殖を行っているブリーダーにとっては、これらは常識なのです。規制されてやっているのではなく、経験知やブリーダー同士のつながりで普通にクリアできているのです。彼らはビジネスだけで繁殖していないので、飼い主を選びます。見学の際に、しっかり対面して、飼い主として相応しいのかを確認し、少しでも問題があるようなら譲ることはありません。彼らのペットに対する愛情と真摯な姿勢は、ペトハピで紹介している「太鼓判ブリーダー」を読んでいただければ理解してもらえると思います。

日本はペット後進国だと聞くことがあります。海外からもそう見られてもいます。実際に、国内のブリーダーが、「健全」を維持するために海外から猫を迎えようとしたとき、海外のブリーダーから断られたようです。その理由が、「愛情をかけて育てた猫が、劣悪な環境で飼育されるのは耐えられないから」というものだったそうです。それは、悪徳ブリーダーなどネガティブな発信しかしてこなかった、私たちメディアの責任でもあると思います。

結局、何度もやりとりをして迎えることができたようですが、それが世界から見られている日本のペット業界の現実なのです。

しかし、前述のとおり日本にも「健全」なブリーダーはいるのです。

「はたして日本は“ペット後進国”なのか? 欧米との考え方の違いを理解しよう」という記事でも書きましたが、動物愛護団体のモデルでもある、1824年に設立された世界最大の動物福祉団体「英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)」のサイトには、「Buying a puppy(子犬を賢く迎える方法)」というコーナーがあります。ペトハピの掲載基準と同じ考えですが、「太鼓判ブリーダー」たちは、さらに高いレベルでブリードをしているのです。

私たち飼い主である消費者が、しっかりと知識を持ち、行動すれば、健康で人に優しい犬・猫との生活をスタートでき、終生にわたって幸せに暮らすことができます。言い換えれば、悪徳繁殖業者や流通業者は、このような基準にそって繁殖を行わなければ、売れないことになり、改善するか廃業するしかありません。以前、ペットオークション業者が「ニーズがあるからやっている」とコメントしていた記事を見たことがあります。そうなんです、私たちが考えや行動を変えることで、悪しき慣習は変えていけるのです。それが、「殺処分ゼロ」につながる行動なのではないかと思います。

[編集長 国久豊史]