犬との暮らしで知っておきたいこと Vol.13

【犬飼いTIPS】狂犬病予防接種は、なぜ必要なのか

[2019/05/23 6:01 am | 編集部]

毎年、春が来ると動物病院が混雑して大変になります。それはご存じのとおり、狂犬病予防接種とフィラリア予防対策のために、飼い主とその愛犬が通院するからです。しかし、狂犬病が発生していない日本で、犬の予防接種を受ける必要があるの? と思っている飼い主さんもいることでしょう。今回はなぜ狂犬病予防接種が必要なのか、その理由についてのお話です。

発症すると100%死亡する

狂犬病はウイルスを持っている動物に噛まれたり、目や唇などの粘膜を舐められたりすることで、狂犬病ウイルスが筋肉から神経に入り、最終的にウイルスが脳に達して破壊することで死に至る病気です。発症時には、すでにウイルスが脳を侵しているため、ウイルスの増殖を阻止する方法がなく、動物も人も100%死亡するといわれています。

日本での狂犬病流行の記録は江戸時代からで、将軍綱吉の出した「生類憐みの令」が要因で、その後、捨て犬が増大したことにより狂犬病が流行したとされています。昭和31年まではこの病気が流行していて、狂犬病に感染した犬に咬まれて死亡した人が大勢いました。その後は、国内での発生は確認されていません。しかし、世界各国では毎年5万人以上の人間と十数万以上の動物が狂犬病で死亡しています。海外からの帰国後に狂犬病を発症した例もあり、いずれも現地で犬に咬まれたことが原因となっています。

厚生労働省の狂犬病のページより

狂犬病の感染源は犬だけではない。未然に防ぐ方法は?

狂犬病は、病名に「犬」が入っているため、感染源は犬だけだと思っている人が多いのですが、狂犬病ウイルスはすべての哺乳類に感染します。そのため、海外においてはすべての動物に気を付ける必要があるのです。「海外では無防備に動物に触らない」ことが大切です。

世界で発生している狂犬病はインド、タイ、フィリピンなど、アジアの国やアフリカで多く、じつは海外旅行のツアー企画の動物とのふれあいにも感染の危険はあるのです。「ゾウと交流する」「豚と泳いで遊ぶ」「キツネザルと散歩」「ライオンの子どものお世話」「野生のロバと遊ぶ」など、なんとも楽しそうなツアーがたくさんあります。

しかし、実際に2018年にはモロッコで猫に咬まれた旅行者が狂犬病を発症し、その後死亡しており、観光地にいることが多い猫も撫でたり抱き上げたりすることで、感染する危険があるのです。もっとも、狂犬病の発生国の動物であれば感染している可能性もあり、咬まれたり、ひっかかれたりすることで体内にウイルスが入り込み、帰国後に発生して命を落とすことも。海外旅行に行くときには動物とのふれあいに注意が必要です。

厚生労働省の狂犬病のページより

50年以上、狂犬病が発生していなかった台湾では、2013年に野生動物の間で狂犬病が流行していることが確認されました。イタチアナグマ389頭、ジャコウネズミ1頭、犬1頭に狂犬病の発生が確認されたのです。狂犬病清浄地域とされてきた台湾において、野生動物の間に狂犬病が見つかった問題を重要視し、2014年8月、日本の厚生労働省と国立感染症研究所が国内の野生動物を対象に感染の有無を調べる全国初の調査を開始しました。

そのほかにも、海外の船から不法上陸犬対策などを行っていますが、狂犬病のウイルスをもった動物の国内侵入はいつ起きてもおかしくないと指摘する有識者も多く、それだけでは防ぎにくい現状があります。犬、猫、きつね、あらいぐまなどを輸入するには検疫があり、狂犬病予防接種のあとに血清検査が行われ、待期期間をとるなどしっかりとチェックされますが、ハムスターなどの小動物は届け出だけで済まされます。

海外ではペット用のハムスターが狂犬病を発症した事例もあり、犬以外の動物からも人が感染する可能性があるのです。当然、犬も散歩や野山に遊びに行ったときなどに、ほかの動物から感染する可能性もあるため、万が一に備えて狂犬病予防接種を受けておくことが大切です。

感染するとどんな症状が出るの?

犬や動物に咬まれたり、傷口を舐められたり、目や口などの粘膜を舐められたりすることで、唾液中に含まれた狂犬病ウイルスにより感染します。咬まれてから発症するまでの潜伏期間は約1~2カ月といわれ、前駆期と呼ばれる初期には、発熱、頭痛、倦怠感、疲労感、筋肉痛、食欲不振、悪寒、嘔吐などの風邪に似た症状が見られます。

その後、急性期には知覚異常、痙攣発作が見られ、高熱、麻痺、運動失調、全身麻痺が見られるようになります。これらの症状から2~7日後に昏睡期に入り、呼吸困難から死に至ります。ほぼ100%死亡する恐ろしい感染症です。当然、感染した犬も動物も100%命を落とすことになります。

「狂犬病予防法」はどんな法律?

恐ろしい狂犬病を防ぐために、日本には「狂犬病予防法」という法律が定められています。この法律に基づいて、91日齢以上の犬の飼い主は、その犬を飼ってから30日以内に管轄の市町村に犬の登録をし、鑑札を受け取る必要があります。さらに、年に1回は狂犬病予防接種を受け、注射済票の交付を受けなければなりません。これらは飼い主の義務であり、もしそれを行わない場合は20万円以下の罰金の対象となるだけでなく、犬は捕獲・抑留されてしまいます。

もし、自分の愛犬が狂犬病にかかった場合には、その犬だけでなく発生地域の犬すべてが係留の対象となります。狂犬病の検査、犬の移動制限、交通の遮断等が状況に合わせて行われることになるのです。前項で述べたように、狂犬病清浄地域であっても「絶対に発症しない」とは限らないのです。愛犬が発症すれば発生地域の人にも多大な迷惑をかけることにもなります。犬の飼い主はしっかりとルールを守り、責任を持って飼うことが大切なのです。

まとめ

海外ではサルやコウモリ、あらいぐまなど、さまざまな動物が感染源になって狂犬病が発生しています。現在では、さまざまな動物が海外から輸入され日本に持ち込まれています。検疫対象外の動物についてはその危険性は高く、いつ狂犬病が日本に持ち込まれるかわからない状態です。愛犬を守ることができるのは飼い主だけです。そして、愛犬を守ることが飼い主をはじめ、ほかの人や犬、動物を守ることにもなります。年に1度ですから、しっかりと狂犬病予防接種を受けに行きましょう。

[編集部]