猫との暮らしで知っておきたいこと Vol.21

【猫飼いTIPS】猫にもフィラリア症の予防が必要?

[2020/07/10 6:01 am | 編集部]

フィラリア症というと犬の場合は毎年予防をしている人が多いので、飼い主もどのような病気かよく知っていると思います。しかし、猫の飼い主にとっては何となく知っているくらいで、その予防をすることは一般的ではありません。猫の場合は完全室内飼育が多く、外に出ることがないので大丈夫と考えている飼い主も多いことでしょう。しかし、「米国フィラリア症協会(American Heartworm Society)」では、フィラリア症に感染している猫の約27%が完全室内飼育であったという調査結果を報告しています。日本における全国的な疾学調査では約40%という報告もあります。完全室内飼育であっても、高い感染リスクがあるということなのです。

フィラリア症ってどんな病気なの?

犬糸状虫とも呼ばれるフィラリアは、素麺のように白く細い寄生虫で、成虫になると30cmくらいなります。心臓から肺にかけての血管周辺に寄生し、血液循環や内臓にも深刻な障害を与えるとても恐ろしい虫です。寄生する虫の数や寄生部位により、さまざまな症状が表れ、重症の場合は突然死することもあります。

フィラリアが成虫になるためには、フィラリアを媒介する蚊の体内でミクロフィラリアから感染力を持つ幼虫に成長することが必要です。日本では、約16種類の蚊がフィラリアを媒介していることがわかっています。水田、農村地帯に発生するハマダラカ属の蚊、都市部の汚水地域や衛生環境の悪い地域の下水・トイレなどに発生するイエカ属のネッタイイエカなどの蚊、そのほか、ヤブカ属、マヌカ属など広範囲の蚊がこれにあたります。これらの蚊が犬や猫の血を吸うときにフィラリアの幼虫が体内に侵入し、寄生しているのです。その後、約6~7カ月で幼虫から成虫に成長しながら、犬や猫に深刻な症状を引き起こします。特に蚊が多い日本では、つねに感染の可能性があるのです。

猫のフィラリアは呼吸器に症状を及ぼす

フィラリアが猫にも寄生することは以前からわかっていました。しかし、猫は犬に比べてフィラリア感染に対する抵抗力が高く、たとえ猫の体内に入ってもフィラリアが十分に発育しないことが多いため、重大な疾患とは考えられていませんでした。そのため、予防も重要視されていませんでした。ところが、猫のフィラリア症の調査や研究が進むにつれて、さまざまなことがわかってきました。過去の疫学調査では、猫の90%がフィラリアの感染歴があるが、排除する力が強いために発病するのは10%程度という報告もなされました。そのため、猫のフィラリア症の予防の必要性が啓発されています。

じつは、数年前から猫の原因不明の呼吸器疾患の中にフィラリア寄生による呼吸器障害「HARD(heartworm associated respiratory disease)」があると注目されるようになりました。犬の場合はフィラリアの成虫が心臓や肺に寄生し、主な症状を引き起こすのですが、猫の場合は成虫よりも幼虫が猫の呼吸器に悪影響を及ぼすことがわかってきました。この「HARD」は感染したフィラリアが肺血管に侵入することで急性肺炎を引き起こし、その後、心臓や肺血管に侵入していたフィラリアが死滅することにより、さまざまな肺障害を発症させる疾患です。

その症状は無症状のものから、一過性の咳が出るもの、嘔吐や食欲不振、下痢、体重の減少などがみられるものがあり、重症の場合は突然死することもあります。猫の突然死の約1割はフィラリア症であるといわれています。しかし、猫は犬のように血液検査でミクロフィラリアを見つけることや、抗原検査で感染を見つけることは困難です。寄生数の少ない猫の場合は、検出が難しいのです。そのため、猫のフィラリア症の診断はとても難しく、喘息やアレルギー性気管支炎など誤診されることが多いようです。これまで猫のフィラリア症という診断が少なかったのはそのためだと考えられています。しかし、猫の心臓は小さく、動きも早いので、たった1匹の寄生でも突然死をする可能性があります。猫のフィラリア症は、発病時のリスクが高い疾患なのです。

フィラリア症の危険から猫を守るには?

前述のとおり、猫のフィラリア症は診断が難しいうえに治療法も確立されていません。ですから、犬と同様にフィラリアの寄生を予防することが猫の健康維持のために大切な要素となります。米国犬糸状虫学会のガイドラインにも以下のように記載されています。


Preventives should be started in kittens at 8 weeks of age and be administered to all cats in heartworm-endemic areas during the heartworm transmission season.

「予防薬は、生後8週齢の子猫から開始し、フィラリア症の感染時期に、フィラリア流行地域のすべての猫に投与する必要がある」

出典:米国フィラリア症協会

米国では、全50州でネコフィラリア症の診断がなされています。しかし、気候変動や保菌する野生生物存在など、複数の要因からリスクを予測することは不可能で、感染率は年ごとに大きく異なります。また、感染した蚊は室内にも侵入するため、屋外でも屋内でもペットは危険にさらされています。なので、協会としては、年一回の検診と月一回の予防薬の投与を推奨しています。

まとめ

現時点でネコフィラリア症を治療するための治療薬はありません。愛猫がフィラリア症にならないためには、感染を予防をするしかないのです。国内においても、猫用のフィラリア予防薬が販売されています。予防は蚊の発生する時期に合わせて、5月~11月(地域差あり)くらいにするのがよいとされています。どの予防薬がよいのか、期間はいつがよいのかなど、かかりつけの動物病院で相談するとよいでしょう。

米国では研究が進められており、飼い主にもフィードバックされています。日本においても猫のフィラリア予防が広まっていけば、原因不明の突然死や呼吸器症状などが減少することでしょう。ぜひ、愛猫のフィラリア対策を始めましょう。

[編集部]