保護猫カフェ「ととの森」の命を救う活動とは?

[2019/04/19 6:01 am | ペットジャーナリスト 阪根美果]

千葉県船橋市のゆめまち習志野台モールの中にある、里親募集型猫カフェ「ととの森」は、2016年5月のオープン以来、保護猫の新しい家族を見つけるために奮闘してきました。行き場がなくなった猫たちが、再び新しい家族と出会い、穏やかに、幸せに暮らしていけるようにと、日々活動しています。3年間で約70頭の猫たちの里親が決まり、ここから巣立っていきました。また、個人で保護活動をしている人に併設した譲渡会場を貸し出し、そこで里親が決まった約50頭を加えると約120頭になります。

「ととの森」の保護猫たち

しかし、現在はさまざまな事情から保護依頼が増え、受け入れできない状態が続いているのです。そこにはどんな背景があるのでしょうか? 里親募集型猫カフェ「ととの森」代表の今村 瞳さんにお話を伺いました。

動物を愛する気持ちが活動のきっかけに

幼いころから動物が好きで、捨て猫を拾ってきては育てていた今村さん。しかし、家族として一緒に過ごしてきた愛猫が虹の橋を渡る辛い気持ちは、とても耐えがたいもので、数十年間は動物を飼うことを避けて暮らしてきました。そんなある日、人生を変えるほどの大きな出会いがありました。目の見えない癲癇(てんかん)をもった猫を拾ったのでした。

保護した時は、ただ目の前にいる子がかわいそうという思いだけでした。でも、一生懸命に生きようとするその子の姿を見ているうちに、心の中にある思いが浮かんできたのです。「この子のように誰かが保護してあげることで、救える命や繋げる命がある。私はそんな懸け橋になりたい」と強く感じました。

その後、保護猫についていろいろ調べてみると、見えてきたのは悲しい現実でした。幸せな最期を迎えることのできない猫たちがあまりに多く愕然としたのです。1頭でも多くの猫を救いたい。そんな思いから「里親募集型猫カフェ・ととの森」は始まったのです。

「ととの森」の店内

「保護猫カフェ」設立までの苦労とは

「2015年11月に店舗契約をしたものの、当時はまだ保護猫カフェは珍しく、各行政機関の指摘箇所をすべてクリアする施設をつくらなければなりませんでした。「飲食業として許可を出している保健所、消防法に基づき指導する消防署、動物愛護法に基づき指導する動物愛護センターなどに納得してもらえる施設をつくる必要がありました。これにはかなりの時間を要しました」と今村さん。

そして、何よりの苦労は、第1種動物取扱業=営利目的の登録であるため、保健所に収容された猫を引き取ることが許可されず、2016年5月のオープン直前まで保護できる猫を探し続けたことでした。保護活動の資金源となるはずの譲渡会場(カフェ)での飲食代等が、理念の妨げとなったのです。その後、ブリーダーからの引退猫を引き取ることになり、その猫たちの新しい家族を見つけることからスタートをしました。

猫にも人にも幸せなカフェスペース

「ととの森」は猫にも人にも幸せな場所

ここは保護猫の受け入れが9頭まで許可されています。「猫たちはストレスフリーの空間で過ごしながら飼い主さんに会える」「事情があって猫を飼えない人にも癒される空間になる」をコンセプトに、12坪という小さな空間にさまざまな工夫を凝らして運営を始めました。

保護スペースと譲渡会場(カフェ)にはしっかりと仕切りをして、アレルギーがある人でも楽しめるようにしました。しかし、いざオープンしてみると徐々に保護依頼が増えたため、譲渡会場に保護スペースを増設して、臨時で数頭の保護ができるように改装しました。とはいえ、猫にとって快適で幸せな空間であるように、また、カフェを訪れる人にもゆっくりと穏やかに過ごせる空間であるように、その点を重要視しているため、無理な受け入れはしていません。猫にも人にも幸せな場所でなければ意味がないからです。

店内の譲渡会場には保護スペースを増設

また、保護した猫たちが幸せな生涯を送れるように、譲渡の方法にも工夫を凝らしています。まず、里親希望者と十分なお話(ヒアリング)をします。次に猫との相性や接し方を確認するために、最低5回は会いに来てもらいます(マッチング)。その後、猫にも里親希望者にも問題がないと判断できたら、里親希望者の自宅で1~2週間のトライアルをします。そして、さらに問題がなければ正式譲渡となるのです。この間も連絡を取り合いながら、双方が幸せに過ごしていけるのかを見極めるようにしています。譲渡後もしっかりとサポートをしていきます。保護した理由はさまざまですが、保護猫がもう2度と路頭に迷わないように愛情と責任を持って活動を続けているのです。

増え続ける保護依頼の背景とは

「オープンして間もなく3年になろうとしていますが、保護依頼が増え続け、現在は保護の受け入れをストップせざるを得ない状況です」と今村さん。

その背景には、社会問題となっている動物虐待や多頭飼育崩壊の増加による保護、飼い主の高齢化による飼育放棄や死亡による保護などの増加があります。多頭飼育崩壊の場合は、一度に多頭数の保護依頼が来ます。劣悪な環境で過ごしてきた場合はさまざまな病気を抱えている場合もあり、その後のケアに苦労します。また、飼い主が死亡して取り残された場合などは、数日間にわたって水やフードを食べておらず、かなり衰弱している場合もあります。人間の身勝手な行動が、猫たちの命を危険にさらすこともあるのです。

また、繁殖期にはほぼ毎日のように子猫の保護依頼があります。産まれて間もない子猫であれば、親からはぐれてしまえば衰弱死してしまいます。どんな理由があろうと「命」の重さには変わりはありません。保護できる状態であれば、引き受けるようにしています。

「ととの森」への保護依頼も上記の理由が上位を占めています。今後、高齢者からの保護はますます増えることが予想されています。増える保護依頼に対する現在の課題は、12坪という狭い空間であるため、病気の猫を完全隔離するスペースがないこと。また、保護できる頭数が少ないため思うように保護の受け入れができないことです。思い悩む日々が続きました。

猫と人に寄り添った保護猫シェルターを目指す

2019年3月、その課題をクリアするために、同じ志をもつ仲間と新規プロジェクトを立ち上げたのでした。

「保護猫シェルターを作ろうと奮起したものの、自己資金だけでは難しく、クラウドファンディングを利用してみなさまからご支援をしていただくことにしました。シェルターでの一時保護数は20頭を上限にし、年間約100頭の猫の命を救うことを目指します」と今村さん。

今回のプロジェクトでは、シェルター兼譲渡会会場のための店舗を千葉県津田沼市周辺に借りて、オープンする予定です。猫たちが譲渡先でもストレスなく過ごせるように、シェルター内を一般家庭に近い内装にすること、子どもの情操教育に役立つ空間をつくること。また、多くの人が猫と接することができるようにバリアフリーの設計を行います。

子どもの情操教育にも役立つ空間をつくる

また、かかりつけの獣医師と提携し、シェルター内にワクチン接種・簡易診断ができる施設を併設。これまで「ととの森」では受け入れることのできなかったエイズ・白血病などのキャリアの子を一時保護できるスペースも設けます。そのほかにも、猫たちが幸せに過ごし、新しい飼い主のもとへ巣立つようにさまざまな工夫を凝らしていきたいと考えています。

里親募集型猫カフェ「ととの森」代表の今村さんの熱意が伝わってきます。保護猫の命を救うための活動はこれからも続いていきます。

猫たちが幸せに過ごせるように工夫がなされた空間

「ととの森」クラウドファンディングプロジェクト
期間:公開中~4月26日(金)まで
問い合わせ先:047-497-8899 里親募集型カフェ「ととの森」
URL:https://readyfor.jp/projects/22542

まとめ

近年、多くの自治体が「殺処分ゼロ」を掲げ、それを目指してきました。実際にそれを実現し、歓喜の声も多く上がっています。しかし、詳しく調べてみると、その地域の保護団体や保護活動をする個人がその多くを引き取り、新たな飼い主を探すことに奮闘している実態も見られます。

今回の里親募集型猫カフェ「ととの森」代表の今村さんの活動も、保護猫の命を救う同様の活動です。「殺処分ゼロ」達成の裏側には、これらの活動をする団体や個人の努力があります。その努力を多くの人が知り、それぞれの方法で、できる範囲で応援していくことが、保護された犬・猫の尊い命を救うことになるでしょう。

[ペットジャーナリスト 阪根美果]