賃貸住宅にペットと住みたい! でも……

[2016/05/12 6:00 am | ペットジャーナリスト 阪根美果]
株式会社マイド
原田千草社長

ペット可賃貸住宅は時代の流れとともに、その戸数は増加してきている。増加の大きな要因は、ペットを家族の一員として飼う人々が増えたことであるが、そこにはまだ、「ペットとの共生」という考えは根付いていない。

また、仲介する不動産会社、貸主、借主に賃貸住宅でペットと生活するための知識が浸透しているのかも疑問である。ペット可賃貸住宅の普及には借主のモラルの向上と貸主の正しい理解が重要といえる。

今回、ペット可賃貸住宅を専門に扱う、マイドの原田社長にその現状と展望についてお話をうかがった。

ペット可賃貸住宅専門にした理由

ペット可の賃貸住宅に力を入れ始めたのは、7~8年前からですね。私もがペットをこよなく愛する人間のひとりですので、同じ思いを持つ方々のお手伝ができればと思ったのが大きな理由です。私もトイプードルを飼っているのですが、ごくあたりまえに、愛犬と一緒に出社するための賃貸物件を探すのにとても苦労し、ようやく今の所在地にいたりました。

このように、物件探しには「時間と労力」が必要です。ですから、お客様のご希望に合った物件をご紹介できるよう、日ごろから多くの物件を把握しておく必要があると思っています。また、専門である以上は、ペットに関しての質問を受けることもあるので、ペットに関する知識も深めることも大切になります。

ペット可賃貸住宅の今

貸主様の考えや地域によって、飼うことができるペットの種類が異なります。最近では猫の飼い主が増えてきたので、猫可の物件自体も増えてきてはいますが、犬可が6割、猫可が4割というところですね。

犬可のほうが多いのは、退去後にかかる修復費の差によります。一般的には、犬よりも猫を飼われているほうが高額になる場合が多いです。壁の引っかきキズくらいならばそれほど費用はかからないのですが、問題は猫のスプレー行動にあります。継続的なスプレーが床に浸透し、嫌なニオイが取れなかったり、ひどい場合は床が腐り、下まではがして修復する必要もあり、高額になります。そのようなことから、貸主様が猫可にすることをためらう場合があり、猫可の物件が増えない要因になっています。

当社では最低限のルールとして、雄猫の場合は去勢手術をお願いしています。また、多頭飼育や大型犬飼育には拒否感のある貸主様が多いのも、修復の費用に関係しています。2頭までという物件が多いのは、それが修復に対するセーフティーラインなのです。もちろん、借主様のモラルが向上すれば、そのラインはいずれ消えることでしょう。

家賃については、同じような構造や間取りであっても、ペット可の物件の方が5~10%高めに設定されていることが多くあります。また、退去時の修復も考えて、敷金も1~2カ月ぶん多めに預かる場合がほとんどです。あらかじめ0.5~1カ月ぶんは敷金償却と決められている物件もあります。

それはペットを飼っていることにより、通常よりも室内の汚れや破損が多くなることを想定しての対策です。実際問題として、本当にひどい状態で退去される借主様もいるので、その場合は敷金ではまかないきれないため、追加請求させていただいたこともあります。借主様のモラルの低さを感じる瞬間ですね。

ペット可賃貸住宅の貸主の思い

今回はペット可物件の貸主様に考えを聞いてみました。JR淵野辺駅徒歩15分のエバーグリーンマンションの貸主のA様、小田急線町田駅徒歩4分のstepsの貸主のB様は、ともにペット可の賃貸住宅を提供されています。

Q:ペット可の物件にしたきっかけとは? また、始めて何年ですか?

A様:ペットが常にまわりにいる環境で育っていたので、「ペットと一緒に」が基本的な考えです。ペット可の物件は35年前からです。
B様:ペットを家族の一員として考える方が増えてきたので。新築時(9年前)からです。

Q:物件はペット仕様になっていますか?

A様:なっていません。
B様:なっています。

Q:今までに何か問題はありましたか?また、どのように解決しましたか?

A様:過去に多少汚い状態で退去された方がいて、リフォームなどに通常よりも大きな費用がかかってしまったことがありました。あらかじめ敷金を多く預かっていたので、大きな問題にはなりませんでした。入居の際にペット飼育申込書等でお約束をしているので、抑制されている部分もあるとは思いますが、借主のモラルが重要だと思います。
B様:今のところ特に問題はありません。

Q:借主に望むことはありますか?

A様:しつけやモラルなどの責任はペットではなく借主(ペットオーナー)の問題と考えていますので、そのあたりをすべての借主には認識してほしいです。
B様:借主みんなが気を配り、理解し、協力し、入居状態を最良のものにしてほしいです。

Q:借主にモラルなど、何か啓蒙をしていることはありますか?

A様:入居時にペット飼育申込書にて守っていただきたいことをお約束しています。
B様:ペットに対する理解を借主に深めていただきたいと思っていますが、現時点では何もしていません。

Q:ペット可の物件にして、考え方や見方など変化はありましたか?

A様:やはりペット可の物件のニーズは年々増えてきていると実感しています。
B様:ペット可の物件の少なさ(増えてきてはいますが)を感じています。自分自身のペットに対する考え方にも広がりが出てきました。

Q:人とぺットの共生についてのお考えがございましたら教えてください

A様:欧米のように、ペットを飼育する飼い主がモラルをもつようになって、人とペットがごく自然に共生できるようになればいいと思っています。
B様:ペットが人のかけがえのない友たちや家族の一員となることがあたりまえとなる未来を望みます。それはほんとうに素敵なものですから。

今回、お話をうかがった貸主様はご自身でもペットを飼われ、ペットとともに生活することの素晴らしさをご存じです。ペットの習性なども詳しいので、寛容な考えをお持ちでした。そうであっても、貸主様が望むことは、借主様のモラルの遵守です。せっかくペットと暮らせる部屋を提供しても、モラルの低い借主様がいると、提供したことを後悔してしまう貸主様もいることでしょう。

ペット可賃貸住宅はあくまでも賃貸であり、自分の持ち物ではありません。退去時には経年劣化部分は別として、原状回復をしなければなりません。借主としては、その点をしっかりと理解し、日ごろからペットと向き合い、学ぶことが大切ではないでしょうか。

最低限必要な借主のモラル

当社では、契約時には「ペット飼育申込書」を書いていただきます。内容は誓約書のようなものです。たとえば、「吠え癖のある犬の場合は、窓を開けたままにしない、ベランダに出したままにしない」「ブラッシングして抜けた毛は、排水溝に流さず、必ずゴミ箱に捨てる」など最低限必要なモラルが明記されています。

最近では「トイレに流せる猫砂であっても、トイレには流さない」という事項を追加しました。今は節水式の便器が多いので、一度の排水で流れる水の量が少なく、詰まりやすいためです。また、入居中・退去時の損害賠償などについても詳しく明記しています。そのほかにも、貸主・借主様から相談があれば、適宜対応しています。

しかしそれでも、頭数制限を無視したり、糞尿を放置したり、共有部分を汚すなど、モラルがない借主様による問題が発生しているのも事実です。そのような一部のモラルのない借主様の行動が、結果的にペット可の物件が増えない要因になってしまうのです。ですから、ペットを飼う借主様のモラル向上はもちろんですが、そのためにも不動産会社も借主様に対しての啓蒙活動は常に必要だと思っています。

ペットを飼う敷居が低すぎる

モラルの問題に関連して、日本はペットを飼う敷居が低すぎると、いつも感じています。自分の生活がきちんとできていない方でもペットを飼えてしまうので、そこが問題だと思うのです。実際に、経済的に飼えなくなったという理由で、退去のときにペットを置き去りにした借主様もいました。生活保護を受けていたり、毎月の家賃を数日遅れながらやっと払っている借主様が、じつは猫を4匹飼っていたこともありました。猫たちは病気になったら、病院に連れて行ってもらえるのだろうかと、心配になりますね。

ペットを飼うにはお金が必要です。医療費や食費、生活用品など思っている以上にお金がかかります。自分の生活に余裕がなければ、その方もペットも幸せにはなれないと思います。結果、飼うことを放棄してしまえば、つらい思いをするのはペットです。

また、ペットを譲渡する側も、ただ譲ることだけに考えを置くのではなく、ペットのその後の幸せをも考え、飼い主の経済的な点も見極めて譲渡するべきだと思いますね。近い将来、社会的にそういう仕組みが確立されることを望みます。

これから手がけたいこと

ペット可賃貸住宅+里親募集の紹介をしたいと考えています。ペット可の賃貸住宅を探しに来るお客様の中には、これからペットを飼いたいという方も多いので、そんなときに里親募集の話をして紹介できたらと考えています。保護される犬や猫が少しでも減るような活動をしたいという思いからです。ただ、保護される犬や猫の譲渡した後の将来的なビジョンをしっかりと描いている団体が少ないようにも思います。

私も以前、犬や猫を保護する団体でボランティア活動をしてきました。ただ、その中には本来の目的をはき違えている活動家の方も少なからずいらっしゃいます。考えさせられることがたくさんあり、悲しい経験をしたこともあります。ですので、しっかりとしたミッションを持った方たちと、活動の輪を広げていきたいと思っています。

あとは、老犬老猫ホームなどにもかかわりを持ちたいです。微力ではありますが、私にできることをコツコツとやっていきたいですね。それこそがボランティアだと思います。

[ペットジャーナリスト 阪根美果]