「かわいい」だけではペットとの暮らしは続かない

[2015/10/26 6:00 am | 編集部]

「ペットを飼いたい」と、思ったら……

みなさんがペットを飼おう(飼いたい)と思ったきっかけは何ですか? 特別な理由や、やむを得ない事情があった方もいる一方で、「かわいいから」「動物が好きだから」「触れ合う時間が楽しそうだから」などの漠然としたイメージやフィーリングから始まった人も多いでしょう。 「事実、ペットとの暮らしは私たちにさまざまな恩恵をもたらしてくれます。個人的には、ひとりでも多くの方にペットを飼ってもらいたい、ペットとの暮らしの素晴らしさを知ってもらいたいという思いでいます」そう話してくれたのは、公益財団法人 日本動物愛護協会理事長で獣医学博士の杉山公宏さん。杉山さんご自身も、動物たちとの生活を通じて心が豊かになったり、癒されたりなどの精神的効果はもちろん、世話をすることで規則正しい生活サイクルを維持できたり、一緒に遊ぶことで適度な運動の習慣も身についたそう。 「しかし、ただ“かわいいから”という理由だけで、無計画にペットを迎えるのはよくありません。ペットも人も幸福な共生のためには、飼い主さんの意識がとても大切です」と、杉山さん。ペットとともに生きる上で、私たちがするべきことは? また、どんなことを意識したらよいのでしょうか? 杉山さんと一緒に考えていきましょう。
公益財団法人 日本動物愛護協会理事長 獣医学博士 杉山公宏氏 総理府動物保護審議会委員並びに環境省中央環境審議会動物愛護部会臨時委員として、動物愛護管理全般推進に貢献した功績などが評価され、平成21年度動物愛護管理功労者大臣表彰を受賞。平成25年からは同協会理事長として、さらに広く動物愛護と福祉の活動に尽力している

家族全員の正しい理解がペットの幸せを左右する

昭和23年に設立された日本動物愛護協会は、国内で最も歴史のある動物愛護団体のひとつ。犬や猫をはじめとしたペットたちの愛護と福祉を訴え、支援活動や公演会、他団体への協力など、さまざまな活動を続けています。 「我々の協会が設立された終戦直後は、犬は用心棒、猫はネズミ捕りといった目的を持って飼う家庭が大多数でした。それが現代では、ペットは愛玩する対象として、家族の一員としての存在価値を求められるように。人とペットとの関係性は大きく変化したにも関わらず、昔から変わらず問題になっているのが虐待です」 虐待とは、直接的に動物に暴力や危害を加えるだけではありません。世話やコミュニケーションを放棄したり、清潔で快適な飼育環境の維持を怠ることも虐待の一種。そして、「こんなにかわいいペットを自分が虐待なんてするわけがない」と思っている人も、決して他人事ではないということを、まずは心に留めておいてください。 すべての動物たちには限られた命があり、それぞれに自分の意思があります。また、本能や習性のなかには、人との暮らしに不都合な問題が出てくることも。それらは、しつけで100%コントロールできるものだけではありません。 「第一に、ペットの習性や飼育に必要なことをきちんと学んで理解すること。そして、根気強く向き合うこと。ときには、ペットが飼い主さんの思うように行動してくれないこともあるでしょう。そのストレスが、はじめは“かわいい”と思っていたはずのペットを虐待してしまう引き金になることもあるのです」
飼い主もきちんとした愛情と知識を持つことが大切だと杉山さんは語ります
動物愛護協会をはじめとした各動物愛護団体では、動物の生態を理解し、正しい触れ合い方を学ぶさまざまな企画を実施しています。たとえば、日本動物病院協会では、アニマルセラピーの一環として小学校へ犬などの動物とともに訪問する動物介在教育なども積極的に開催。子どもたちが動物との正しい触れ合い方や命の大切さを学ぶきっかけになっています。 「子ども自身だけではなく、その親である大人たちにもよい影響を与えてくれていると思います。子どもが学校で動物と触れ合った経験を家庭で話すことで、家族みんなで“動物と暮らすこと”について考えられますから」

家族みんなで苦労や負担を充分に考慮しよう

ペットを飼うということは、その命を預かるということ。ペットは飼い主さん以外に頼れる人がいません。杉山さんは、ペットを飼っている、これから飼おうと思っているすべての方に理解してほしいという“飼い主に必要な10の条件”についても教えてくれました。

飼い主に必要な10の条件

  • ①住宅がペットを飼える環境にあること
  • ②動物を迎えることに家族全員の合意があること
  • ③動物アレルギーの心配がないこと
  • ④その動物の寿命まで(終生飼養)飼育する覚悟があること
  • ⑤世話をする体力があり、その時間をさけること
  • ⑥高齢になった動物の介護をする心構えがあること
  • ⑦経済的負担を考慮すること
  • ⑧必要なしつけと周囲への配慮ができること
  • ⑨引っ越しや転勤の際にも継続飼養する覚悟があること
  • ⑩飼えなくなった場合の受け皿を考えておくこと
いかがでしたか? ペットと暮らすということは、飼い主さんへの面倒や負担もいっぱい。もし、上に挙げた項目のなかでひとつでも実行できない可能性がある場合は、迎える前に家族全員で充分に相談しましょう。 「私たちの暮らす社会には、さまざまな場所で動物と触れ合う機会があります。たとえば、飼い主のいない野良猫を地域全体で一定の管理をすることで、猫の嫌いな人にもある程度許容してもらえるよう、その地域に暮らす人と猫との共生を目指す“地域猫活動”などもそのひとつ。直接的にペットを飼う以外にも、動物を身近に感じ、絆を深めることができるのです」
いま以上に野良猫を増やさないことを目指しているのが「地域猫活動」です

家庭で、社会で、実現させるペットと人の幸福な共生

かわいさや楽しさだけではない、ペットを飼うことの責任についてしっかり考えることこそ、動物との暮らしにもっとも大切なこと。そのために、必要な情報をしっかり収集して学び理解することも、飼い主としての義務と言えるでしょう。そして、正しい知識をひとりでも多くの人と共有することが、虐待や殺処分などの不幸な動物を減らす結果にもつながるはずです。 人も動物も幸せな共生は、家庭はもちろん、社会全体の課題でもあります。「自分は動物とどのような向き合い方ができるのか」を、みなさんもぜひ考えてみてください。
[編集部]