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獣医療の未来を担う若き獣医師

[2016/02/17 6:00 am | 編集部]

近年の飼育環境の変化でペットの高齢化が進行し、飼い主が望む獣医療が変化しつつある。従来は大学病院で行われていた二次医療は、民間の獣医師の専門化により、ホームドクター的な一次医療を超えて可能になってきている。さらに大学病院やほかの専門病院との連携により、より高度な獣医療を提供している獣医師も増えてきた。

多様化・細分化する獣医療。飼い主は「どんな病院を」「どんな獣医師を」選ぶべきか。知識・技術は当然だが、ペットとともに飼い主も思いやる心も望まれる。多くの飼い主たちが信頼を寄せて全国から集まる病院、ペット業界のプロたちが推薦する病院、そして獣医師が信頼して紹介する病院にこそ、その答えがあるのだ。ここでは、そんな「選ばれし獣医師」を紹介していく。

脳神経外科の若手実力者

1989年、大阪に誕生したネオベッツVRセンター。獣医療では初の二次診療専門の高度医療センターとしてオープンした民間施設である。この地域に密着したセンター病院で、脳神経外科の専門医として活躍しているのが、王寺獣医師である。「可能性があればあきらめず、積極的に治療の提案をしていきます」と力強い意志を持つ。特に関西においては若手実力者との呼び声が高い。今後の日本における脳神経外科の牽引に期待がかかる、王寺獣医師に話をうかがった。

王寺 隆 先生
1999年:山口大学農学部獣医学科卒業。鶴見緑地動物病院勤務
2004年:フロリダ大学大学院神経外科入学
2006年:フロリダ大学大学院神経外科卒業、修士取得
     ネオベッツ入社 VRセンター勤務
<所属学会>
獣医神経病学会 獣医麻酔外科学会など

・獣医師を目指したきっかけ

「動物の世界への大きな憧れ」

もともと動物が好きだったこともあり、子どものころから犬を飼っていました。ただ、やはり世代的には、テレビなどの影響もあり「ムツゴロウ」さんや「南極物語」とかを見て育っていますので、そういった動物の世界に大きな憧れを抱いていましたね。小学校の文集には「ペットショップの店長になりたい」と書いていましたから、将来はそういった動物に携わる職に就きたいという夢を持っていました。

しかし、そこから成長する中で紆余曲折あったんでしょうね。徐々に現実的な考えをするようになり、弁護士になろうか、と文系に進んだのです。ただ、手に職をつける職業、プロフェッショナルな職業に就きたいという考えは持ち続けており、やっぱり動物に関わっていきたいという幼いころからの思いも再燃し、それなら獣医師になろうと進路を決めました。

・二次診療である高度医療部門での診療を選んだ理由

「ニーズに応えるため米国に渡った」

ちょうど私が仕事を始めたころが、「二次診療」と呼ばれる高度医療の病院ができる過渡期だったのです。大学を卒業したときには、一次診療とか二次診療という概念自体もありませんでした。大学病院でさえ、一次診療のちょっと先を行くくらいでした。ですから、そのまま一般の動物病院に勤務医として着任しました。その後、獣医療も徐々に進歩してきて、CTセンターなどを備えた一・五次診療を行うようになったのです。

今後はもっと高度医療が必要とされる時代が来るだろうと直感しましたが、同時にそれらのニーズに応えるには、自分の知識や技術が不足していると実感しました。当時、日本にはそこまで専門的な知識を得られる場所がなかったので、先進国である米国に渡り、そこで神経系の専門的な知識を蓄積して帰国しました。米国に出発するときには、二次診療の現場で働こうと思っていましたね。

その後、その知識と技術を活かすために、二次診療である当センターに着任しました。獣医療も日々進歩しているので、「常に最新の情報、状況に触れることが獣医師として必要不可欠である」と思っています。これからも常に勉強し続けないといけません。

・ネオベッツVRセンターでの診療を選んだ理由

「純粋に臨床(診療・診察)が好き」

私は純粋に臨床が好きで、診察から手術まで一貫してやりたいという思いがありましたので、その思いと臨床の比重が高いという当センターの方針が合致したということですね。大学病院の二次診療はどちらかというと教育・研究が主な部分になりますので。飼い主さんと直接お話をして動物の治療にあたるということが好きなので、ずっと臨床の現場にはいたいですね。

・診療している主な病気

「症例数は年間約1000例」

椎間板ヘルニアが一番多いですね。犬種でいうとダックスフンドに多いです。ただ、私が行う手術は従来の方法とは違います。2010年ごろからですが、人間の手術と同様の「椎体部分切除術」を多く行っています。骨の削る位置を変えて脊髄にアプローチするという方法により、予後(見通し)がよくなるのです。

これは米国の論文で発表されたもので、それをもとにして積極的に行っている手術です。徐々に日本でも事例が増えていくと思います。次に多いのが首の椎間板ヘルニア(頸椎症)です。そのほかですと、神経系の病気はフレンチブルドックなどに多く、脳の病気に関してはチワワに多く見られます。

・印象に残っている臨床(診察・診療)

「高齢の飼い主さんの選択」

先日、飼い主さんである高齢者のご夫婦が、水頭症のトイプードルを連れて来られました。私のところに来たときには、すでに認知機能障害が出ていました。まだ生後数カ月の子犬です。手術は可能なのですが、手術をしても一生障害が残るであろうという見解でした。

飼い主さんには、手術は可能であることをお伝えするとともに、手術をしても一生障害が残り、伴侶動物としての生活はできないであろうということを説明しました。結局、飼い主さんは「高齢である私たちには、障害が残る状態で飼うということは無理なので、購入したペットショップと話をします」という選択をされました。

高齢者であるがゆえにされた選択だったかもしれません。私もそれは賢明な判断だと思いました。楽しい暮らしをしようと思って迎えた子犬が、まだ幼いうちから介護が必要になったとしたら、高齢者のご夫婦には計り知れない負担がかかることでしょう。

最近では、社会的に高齢者の方に動物を飼うことを勧める動きがあります。それは、認知症に効果があるとか、心のケアに役立つといわれています。高齢者の方が動物を連れている姿は、ほほえましくもあります。よき伴侶動物となるのであれば飼う方も増えると思います。

ただ、今回のような事例もありますので、販売する側の責任は当然として、飼う側の心構えであったり、飼った後のアドバイスであったり、動物よりも先に飼い主さんが亡くなる場合もあるので、それらを事前に相談できるシステムが必要だと思いますね。

・治療をするうえで大切にしていること

「飼い主と動物にとって最良の選択を促す」

その飼い主さんと動物にとって、何が大切なのかを重要視することを心がけています。そのためには、診療時にしっかりとした情報を開示するとともに、飼い主さんの考えや要望を聞くようにしています。その中で、最良の選択をしていただくということが大切ですね。

獣医師としては、その病気に対してベストな治療をしようとしますが、それが押しつけになってはいけません。費用的なものであったり、治療後の世話であったり、それらが飼い主さんの大きな負担にならないように、バランスよく考える必要があります。

ですから、単に治療して終わりではなく、その後の生活においても飼い主さんと動物にとって、よい環境であるように考えることが理想だと思います。また、二次診療の現場では、命にかかわるような疾患の動物が多いので、治療以外にも、飼い主さんの心のケアも忘れてはいけないと肝に銘じています。

・今後の展望

「動物のよさを広めていきたい」

当然のことなのですが、自分自身の知識と技術をより高めていきたいです。今後は若手獣医師も育てていきたいと思っています。どうしても私は臨床が好きなので、ついつい自分が先に出てしまうので、それをコントロールするのが今後の課題です(笑)。

広い視野では、動物のこと、動物のよさというものをもっと広めていきたいです。ロボットによるペットの代用が話題になったりしますが、やっぱりロボットの代用では埋められない要素が動物にはあると思うのです。そこをしっかりと伝えて広めていきたいですね。その結果、動物との共生が潤いのある社会を実現できれば素晴らしいと思っています。

・先生にとって「動物」とは?

「“癒し”の存在」

私にとって一番の「癒し」の存在です。動物は癒しであり、パートナーであり、私が動物に求めるところもその部分ですね。近いうちにトイプードルを飼う予定です。5歳の娘がトイプードルだけを覚えているので、飼うならトイプードルと決めています(笑)。

【ネオベッツVRセンター】
住所:〒537-0025 大阪府東成区中道3-8-11 NKビル
TEL:06-6977-3000(ホームドクターがHPから予約)
最寄り駅:最寄り駅:地下鉄長堀鶴見緑地線 JR大阪環状線玉造駅 徒歩5分
URL:http://www.neovets.com

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